日時:2025年7月25日(金) 13:30-14:55
形式:オンライン (Zoom)
日時:2025年7月25日(金) 13:30-14:55
形式:オンライン (Zoom)
プログラム:
13:30-13:35 はじめに
小原 雄治(ライフサイエンス統合データベースセンター)
13:35-14:00 「AIを応用した英語文献自動探索システムの開発と
DNAバンク業務への実装」
三輪 佳宏(理化学研究所 バイオリソース研究センター )
14:00-14:25 「始原生殖細胞を基盤としたニワトリリソースの活用」
奥嵜 雄也(名古屋大学大学院 生命農学研究科)
14:25-14:50 「確実性の高いショウジョウバエ凍結保存技術」
齋藤 都暁(国立遺伝学研究所)
14:50-14:55 おわりに/アンケートのお願い
NBRP広報室
三輪 佳宏
(理化学研究所バイオリソース
研究センター )
「AIを応用した英語文献自動探索システムの開発とDNAバンク業務への実装 」
人工知能(AI)の活用が日常のさまざまな場面で話題になっていますが、このAI技術をNBRPの活動にうまく組み込むことができれば、業務を省力化できてより良い運営が可能になると期待されます。
そこで理研BRCの遺伝子材料開発室と統合情報開発室が連携して、NBRPの事業活動の中で重要で労力の大きい英語文献の探索にAI技術を活用して自動化することを目指し、令和4、5年度の基盤技術整備に採択していただきました。探索対象となる英語文献として、寄託を呼びかけるために探索する新規遺伝子リソースを報告している「リソース開発文献」、提供したリソースを活用した成果を発表している「リソース活用文献」の2種類を設定しました。
「リソース開発論文」の探索システム開発においては、準備としてScientific Reports誌5年分4000論文を実際に読み、遺伝子リソースを開発しているかどうかのアノテーションを行いました。これを教師データとして深層学習を実施しシステムを構築したのち、開発には使っていない新データを判定させて精度を検証し、精度を向上させるためにシステムを改修する作業を繰り返しました。その結果、最終的には論文全文をサブセクションに分割させて判定させる「サブセクション法」において、高い精度を実現できました。次にこれを他の学術誌に展開し、学術誌ごとの形式の違いなどにより生じる精度差を解消するように新たな開発を加えて、最終的に8誌の探索が可能なシステムを開発しました。これを実際に業務に実装した結果、海外の研究者に向けて積極的な寄託の呼びかけが可能となり、従来は少なかった海外からの寄託が増加し始めています。
一方、「リソース活用文献」の探索システムに関しては、開発後の精度検証の過程で予想しなかった問題点が浮き彫りとなりました。本発表の中で、精度向上のためのリソーストレーサビリティーの工夫についても議論します。
奥嵜 雄也
(名古屋大学大学院 生命農学研究科)
「始原生殖細胞を基盤としたニワトリリソースの活用」
ゲノム編集技術が一般化した昨今の生物学研究において、動物個体における遺伝子の役割を解析するには、トランスジェニック動物や遺伝子ノックアウト/ノックイン動物を用いた実験がますます重要性を増しています。
近年ではCRISPR-Casシステムを受精卵に対して用いることで、非モデル生物においてもゲノム編集系統が簡便に作製できるようになってきました。ニワトリも鳥類のモデル生物として、発生学をはじめとした様々な生物学研究において古くから活用されています。一方で鳥類の卵は巨大な卵黄や卵殻を持ち、さらにある程度胚発生が進んだ状態で産卵されるため、他の生物では一般的に使用される受精卵に対する遺伝子改変が困難であるという問題点があります。そのため鳥類では遺伝子改変系統を作製するために、生殖幹細胞である始原生殖細胞(Primordial germ cells: PGCs)に対する遺伝子改変が注目されてきました。PGCsは、多くの生物種において胚内部をその発生箇所から生殖腺まで遊走するという性質を持ちますが、さらに鳥類においては血中を循環するという特徴を持つため、この時期の胚に遺伝子改変を行ったPGCsを移植することで生殖細胞キメラを介して遺伝子改変鳥類を作製することができます。特にニワトリにおいては、in vitroでPGCsを培養する技術が確立されたことで、遺伝子改変系統の作製効率が飛躍的に向上しました。
本セミナーではニワトリPGCsのin vitro培養法および遺伝子改変方法について解説を行うとともに、当センターにおいて本手法を用いて作製されたCas9タンパク質発現トランスジェニックニワトリや、カルシウムイメージングに最適なGCaMP6s発現TGニワトリなど実例を交えてニワトリリソースの遺伝子改変とその活用法について講演を行います。
齋藤 都暁
(国立遺伝学研究所)
「確実性の高いショウジョウバエ凍結保存技術」
キイロショウジョウバエは1900年代から生命科学のモデル動物として使用され、現在、世界でおそらく数十万種以上の遺伝的に異なる系統がストックセンターや各研究者の努力で、いわゆる生きた状態で維持されている。一方、研究室の閉鎖などによってやむなく消失した系統も多く存在する。このような背景からショウジョウバエ業界における最大の問題は、凍結保存技術の整備にあった。凍結保存技術に関する論文は1970年代から認められ、1990年以降は数年に一度程度のペースで凍結保存が可能になったという報告がNature誌やScience誌などに掲載された。これはショウジョウバエ研究者の拡大とともに増加の一途を辿るショウジョウバエ系統を考えれば、当然のように感じられる。しかしながら、論文化された情報をもとに凍結保存を多くの研究者が実施したと考えられるが、一般的に普及することなく、やはり生きた状態で系統を維持するということが今でも続いている。
NBRPショウジョウバエでは長年にわたりこの問題に取り組んできた。生殖巣や胚、人工授精など様々な材料や条件検討を行ったにもかかわらず長く実現できない状態が続いた。しかし、ようやく始原生殖細胞(PGC)を用いた凍結保存技術が筑波大学の小林悟教授のもとで開発され(Asaoka et al., Commun Biol, 2021)、その技術をストックセンターに取り込むことで凍結保存の実用化にこぎつけた。現在ではこの技術をリソース事業で活用し、少しずつではあるが、凍結PGCリソースを増やしている。
本ワークショップでは、ショウジョウバエ凍結保存技術の確立に至るまでの歴史的背景を解説する。また、PGC凍結の有効性と技術的、設備的基盤を紹介する。未だ本技術を数万にもおよぶ系統に展開することは困難であるが、ショウジョウバエのいわばタイムスリップを実現する本技術の将来展望を議論したい。
ナショナルバイオリソースプロジェクト(NBRP)は、わが国が戦略的に整備することが重要なバイオリソースについて、体系的に収集、保存、提供等を行うための体制を整備することを目的に2002年度にスタートしました。これまでの過去20年間におよぶ活動により、動植物・微生物等のバイオリソースとそれらに関する情報提供の事業拠点が整備され、世界的にも類を見ない多様かつ体系的なバイオリソース整備プロジェクトとして着実に成長してきました。
今回、バイオリソースのさらなる利活用の促進に向け、2022-2023年度に採択された基盤技術整備の課題の成果をご紹介いたします。基盤技術整備では、バイオリソースの品質管理、保存技術、利用価値の向上等により、NBRPの質を向上させることを目的とし、バイオリソースの収集、増殖、品質管理、保存、提供(輸送も含む)等に係わる技術の開発・整備をを行なっています。このオンラインワークショップでは、3つのリソースについて、担当者から、最新の成果について発表いたします。
[主催/お問い合わせ]
国立遺伝学研究所 NBRP広報室