日時:2025年12月15日(月) 13:30-16:00
形式:オンライン (Zoom)
日時:2025年12月15日(月) 13:30-16:00
形式:オンライン (Zoom)
プログラム:
13:30-13:35 はじめに
田畑 哲之 (かずさDNA研究所)
13:35-14:00 「カタユウレイボヤのクローズドコロニー:
実験の再現性向上を目指して」
佐藤 ゆたか (京都大学大学院理学研究科)
14:00-14:25 「コムギ倍数性進化のメカニズム解明へ:
デュラムコムギLangdonのゲノムシーケンシング」
太田 敦士 (京都大学大学院農学研究科)
14:25-14:35 休憩
14:35-15:00 「難培養性原核生物株のゲノム情報の整備:
JCMから利用可能な微生物株の利活用」
加藤 真悟 (理化学研究所 バイオリソース研究センター微生物材料開発室)
15:00-15:25 「病原細菌の完全長ゲノム配列情報整備」
飯田 哲也 (大阪大学微生物病研究所)
15:25-15:55 ブレイクアウトルームにて、登壇者と視聴者の交流時間
15:55-16:00 おわりに
NBRP広報室
佐藤 ゆたか
(京都大学大学院理学研究科)
「カタユウレイボヤのクローズドコロニー:実験の再現性向上を目指して」
ホヤは海産の無脊椎動物であり、発生生物学などの実験動物として150年近い歴史を持っている。最近では、脊椎動物の姉妹群であるヒノウ類(尾索類)に属するという系統学的な位置から、脊椎動物の起源と進化を知るための研究にも用いられている。ホヤは、このように、長い歴史を持ちつつも現在でも盛んに利用されている実験動物であるが、標準となる系統がなく、海から直接採集した動物が実験に用いられるという弱点を持っていた。
研究の上でもっともポピュラーなホヤは、カタユウレイボヤであるが、そのゲノムはハプロタイプ間で約1%程度の塩基の違いがある。この比較的大きな塩基配列の違いは、特に分子生物学的実験の再現性に影響を及ぼす可能性があり、遺伝的に安定な系統の確立が望まれてきた。
その期待に応えるため、近交系の作成が試みられたこともあるが、近交弱勢を克服できず、途絶えてしまった。そこで、我々はクローズドコロニーを作って、2016年以降ナショナルバイオリソースプロジェクトを通じて、ユーザーに提供してきた。当初は、近交弱勢を防ぐために、5~6世代の集団内交配の後、新しい野生個体を導入するという方法によって、比較的短期間でクローズドコロニーを更新しながら維持していた。最近になって、凍結精子を利用することによって、新しい野生個体を導入することなく、集団を維持する方法を採用し、完全なクローズドコロニー化に成功している。これらコロニーの遺伝的な変異は次世代シーケンシングによって解明済みである。つまり、このリソースのもつ遺伝的多様性は一定の範囲にあることが保証され、また、その範囲がすでに解明済みであるということである。直接的に実験再現性の向上に寄与するほか、遺伝的バックグラウンドの違いによると考えれられる再現性の問題が生じた場合に、使用したホヤの遺伝情報をトレースすることができる。このように、ホヤのクローズドコロニーは、研究の信頼性向上に大きく寄与するリソースとなっている。
太田 敦士
(京都大学大学院農学研究科)
「コムギ倍数性進化のメカニズム解明へ:
デュラムコムギLangdonのゲノムシーケンシング」
四倍体コムギTriticum turgidum L.は、おもにパスタやクスクスなどの材料として広く栽培されおり、世界の食文化を支える重要な作物である。四倍体コムギは、二倍体野生種のウラルツコムギT. urartu Tumanian ex Gandilyan から由来したAゲノムと、別の二倍体野生種Aegilops speltoides Tauschから由来したとされるBゲノムをもつ異質倍数体である。また、四倍体コムギは、六倍体であるパンコムギT. aestivum L.の倍数性進化にも関わっている。そのイベントは、二倍体野生種Ae. tauschii Cossonとのあいだの自然交雑と染色体の倍加によって起こったとされている。
四倍体コムギ品種のひとつLangdonは、コムギの倍数性進化の仕組みを解明するための鍵となるリソースである。この品種は、近縁種との種間交雑において高頻度で非還元配偶子を形成でき、合成倍数体を作出しやすい(Xu and Joppa, Genome, 1995; Matsuoka and Mori, Ecol. Evol, 2020)。そのため、約8000年前に自然発生したパンコムギの倍数性進化を人為的に再現し観察できるリソースである。したがって、この品種のゲノム配列の解読は、多くのコムギ遺伝学研究の基盤になると期待できる。
本発表では、NBRP・コムギが2023-2024年度にかけて実施したLangdonの純粋系統のゲノムシーケンシングの実施内容を報告するとともに、この系統に関連する整備中のリソースの情報を含めてNBRP・コムギの取り組みを紹介する。
加藤 真悟
(理研BRC微生物材料開発室)
「難培養性原核生物株のゲノム情報の整備:
JCMから利用可能な微生物株の利活用」
生命の設計図ともいえるゲノム情報は、バイオリソースの付加価値を高める上で、最も重要な生物情報の一つである。近年の塩基配列決定技術の急速な発展に伴って、ゲノムサイズの比較的小さい原核生物(細菌およびアーキア)株の全ゲノム配列が、これまでに数多く報告されている。原核生物株の中でも、特に「種」を代表する基準株は、系統分類学上の比較だけでなく、性質がよく調べられた標準系統として多用される重要な研究材料であり、ゲノム解読も進んでいる。しかしながら、絶対嫌気性であったり、増殖速度が遅かったりといった難培養性の株は、たとえ基準株であったとしても、ゲノム未解読のまま残されている場合がある。本課題では、これらの難培養性原核生物株のゲノム情報を整備することを目的として、NBRPからの支援をいただき、146株のゲノム解読を実施した。さらに所属機関の支援も受け、合わせて351株のゲノム情報を整備した。ゲノム配列を決定した株は、すべて理研JCMから公開されており、284株の基準株が含まれる。そのうちの150株以上がこれまでゲノム配列が報告されていない株であった。また、351株中235株の完全長ゲノムを決定することに成功した。決定したゲノム配列の解析により、分類学的な再考が求められる株や、これまで認識されていなかった代謝機能を持つと予想される株が見つかった。決定したゲノム配列は公共データベースに登録し、一般に公開した。理研JCMでは、微生物株一覧表や配列相同性検索といったオンライン機能を実装し、今回対象とした株を含む21000株以上の公開株リソースの利便性向上に努めている。これらの活動により、難培養性原核生物株の付加価値向上および利活用促進が期待される。
飯田 哲也
(大阪大学微生物病研究所)
「病原細菌の完全長ゲノム配列情報整備」
NBRP病原細菌では、感染症及びヒトの健康に関わる細菌の収集、保存、提供を行っている。参加機関である岐阜大学高等研究院 微生物遺伝資源保存センター、大阪大学微生物病研究所 病原微生物資源室、群馬大学医学系研究科附属薬剤耐性菌実験施設が連携し、より安定した保存体制の整備を図るとともに、利用に際して有用な菌株情報を付与したコレクションを提供している。また、定年などで退職される研究者のコレクションを引き継ぎ、貴重な遺伝資源の保全を行っている。本リソースは令和5-6年度ゲノム情報等整備事業に採択され、「医学・獣医学領域における主要病原細菌の完全長ゲノム配列情報整備」を行なった。
細菌を含む微生物に関しては、すでに膨大な量のゲノム情報が公的データベース等に登録されている。しかしながらその大部分はゲノムが完全にはつながっていないドラフトゲノムである。ドラフトゲノムであっても当該微生物について多くの情報を入手することが可能であるが、例えば、感染症アウトブレイクにおいて病原体の広がりを詳細に追跡する場合には精密なゲノム比較が必要であり、その際にはドラフトゲノムではなく完全長ゲノム配列が必要となる場合がある。また薬剤耐性や病原性、抗原性に関わる遺伝子の機能や発現について研究を行う場合には、1塩基レベルで配列の正確さが求められる場合がある。
本完全長ゲノム情報整備では、NBRP病原細菌リソースが保有の菌株のうち、1)通常の実験室・施設では病原性の問題で取扱いが困難な二種、三種病原体、2)日本で発見・分離された病原細菌、3)分譲実績が多い病原菌種とその類縁菌種、等、計51株について完全長ゲノム解析を行った。得られたゲノム情報は公的データベースで公開しており、NBRPウェブサイトよりアクセスが可能である。本講演では得られた完全長ゲノム配列とその活用例について紹介したい。
ナショナルバイオリソースプロジェクト(NBRP)は、わが国が戦略的に整備することが重要なバイオリソースについて、体系的に収集、保存、提供等を行うための体制を整備することを目的に2002年度にスタートしました。これまでの過去20年間におよぶ活動により、動植物・微生物等のバイオリソースとそれらに関する情報提供の事業拠点が整備され、世界的にも類を見ない多様かつ体系的なバイオリソース整備プロジェクトとして着実に成長してきました。
今回、バイオリソースのさらなる利活用の促進に向け、2023-2024年度に採択されたゲノム情報等整備の課題の成果をご紹介いたします。ゲノム情報等整備では、各リソースの付加価値を高めるための有用な情報の解析等を行なっています。このオンラインワークショップでは、4つのリソースについて、担当者から、最新の成果について発表いたします。
[主催/お問い合わせ]
国立遺伝学研究所 NBRP広報室