日時:2026年5月25日(月) 13:30-16:00
形式:オンライン (Zoom)
日時:2026年5月25日(月) 13:30-16:00
形式:オンライン (Zoom)
プログラム:
13:30-13:35 はじめに
林 哲也(NBRPプログラムオフィサー)
13:35-14:00 「時空間的に遺伝子発現を操作するCreドライバーラット」
石田 紗恵子(東京大学 医科学研究所)
14:00-14:25 「線虫 C.elegansの凍結耐性機構解明へ:より高効率な凍結保存のために」
酒井 奈緒子(日本女子大学 理学部 化学生命科学科 )
14:00-14:25 「非モデル藻類活用のための新規無菌化手法の開発とその応用」
鈴木 重勝(筑波大学 生命環境系)
14:50-15:05 休憩
15:05-15:30 「凍結保存に不向きなゾウリムシの安定した凍結保存方法について」
橘 理人(山口大学 共同獣医学部)
15:30-15:55 「元気な赤痢アメーバ提供します ~赤痢アメーバ用の凍結保存法開発~」
風間 真(長崎大学 熱帯医学研究所)
15:55-16:00 おわりに
NBRP広報室
石田 紗恵子
(東京大学 医科学研究所)
「時空間的に遺伝子発現を操作するCreドライバーラット」
ラットは、生理学・薬理学研究、移植研究、神経科学研究などにおいて、古くからマウスと補完的に用いられてきたモデル動物である。ラットはマウスに比べて約10倍大きく、一度に得られるサンプル量が多いことに加え、投与や外科的処置を行いやすい利点がある。また、比較的知能が高いことから、行動学的実験にも広く用いられている。これまでラットではES細胞の樹立が困難であったが、近年のゲノム編集技術の登場により遺伝子改変が容易となり、遺伝子改変ラットへの期待が高まっている。
私たちNBRP-Ratでは、自然発症のユニークな表現型や遺伝子変異を有する系統から、患者と同じ遺伝子変異を持つ疾患モデル系統、さらにはレポーター遺伝子を発現する有用なツール系統まで、多様で貴重なラットリソースを収集している。また、これらのリソースを凍結胚や凍結精子として保存し、世界中の研究者へ提供している。
Cre-loxPシステムを利用して組織特異的あるいは時期特異的に遺伝子発現を制御できるCreドライバーラットは、さまざまな研究分野で有用なツールとして注目されている。しかし、マウスと比較するとラットでは系統数が十分ではなく、Cre発現に関する情報も限られている。そこで私たちは、Creドライバーラットの積極的な収集を行うとともに、寄託された各種Creドライバーラットをレポーターラットと交配し、網羅的なCre発現解析を行っている。解析データはデータベースとして整備され、ウェブサイト上で公開される。
本講演では、NBRP-Ratが提供しているCreドライバーラットを含めたラットリソースと、ラット研究の発展に向けた取り組みについて、私たちの最近の研究成果と併せて紹介する。
酒井 奈緒子
(日本女子大学 理学部 化学生命科学科)
「線虫 C.elegansの凍結耐性機構解明へ:より高効率な凍結保存のために」
土壌線虫Caenorhabditis elegansは、siRNAやmiRNA、アポトーシスなど、現代生物学における数々の重要な発見に貢献してきた優れた遺伝学のモデル生物である。本種は多細胞生物でありながら、極めて簡便な実験操作によって個体レベルで半永久的に凍結保存できるという、他のモデル動物にはない画期的な特徴を持つ。この性質は、長期飼育に伴う自然変異の蓄積を最小限に抑え、世界中の異なる研究室間でもほぼ同一のゲノム情報を持つ標準株(N2株)を共通のコントロールとして用いることを可能にしている。さらに、作出された新規変異体についても、その遺伝的背景を損なうことなく保存・維持できる点は大きな利点である。
一方で、これほど広く利用されている手法でありながら、線虫の凍結融解耐性を制御する仕組みについては、これまで十分な研究がなされてこなかった。NBRP線虫では、膨大な数の変異体株を作出、維持・分与してきた実績があるが、変異体の中には、凍結保存に弱いために凍結サンプルの作成に人手や時間を要したり、系統を維持できずに失われてしまったものも存在する。こうした維持困難な株の存在は、リソースの安定供給における大きな課題となっている。
そこで我々は、NBRP基盤技術整備事業の支援を受け、凍結融解耐性に関わる遺伝子の同定と、生存率を改善する新たな凍結プロトコルの確立を目指して研究を行った。本講演では、解析により明らかになった凍結融解に脆弱な系統に共通する特徴を紹介するとともに、凍結保存液の組成や凍結保存液への暴露時間を最適化することで生存率を改善させた手法について報告したい。本研究の成果は、線虫リソースの安定的かつ高効率な維持管理を可能にし、今後の線虫研究の基盤をより強固にするものと期待される。
鈴木 重勝
(筑波大学 生命環境系)
「非モデル藻類活用のための新規無菌化手法の開発とその応用」
藻類は多様な系統の真核生物とシアノバクテリアから構成されており、基礎研究から応用研究まで、幅広い分野の実験材料として利用されている。しかしながら、実験材料として広く用いられている藻類は一部のモデル種や系統に限られており、藻類がもつ多様性を十分に活用できていない。この要因として、非モデル種の培養の不安定さと高品質ゲノム情報の不足が挙げられる。この問題を解決するための1つのアプローチとして、本課題では多様な系統の藻類において、種ごとの最適化を必要とせず利用可能な新規無菌化手法の開発に取り組んだ。
藻類の無菌化は一般に困難な技術とされているため、藻類培養株は基本的に非無菌状態で維持されており、培地中には対象藻類以外のバクテリアが多数含まれている。この傾向は国内外のカルチャーコレクションでも同様であり、2023年時点において、国立環境研究所微生物系統保存施設の全保存株に占める無菌株の割合はおよそ28%に過ぎなかった。藻類培養株の無菌化を進めることで、継代培養における混入バクテリアの影響を排除でき、高品質ゲノム解析が容易になることが期待される。
新規無菌化手法の開発にあたり、藻類の増殖に影響する可能性のある化合物(抗生物質等)を使用しないこと、低コストであること、特殊な機器を使用しないこと、様々な藻類種に適用可能なことを重視した。その結果、2種類の新規無菌化手法の開発に成功し、これまでに70株を超える微細藻類と大型藻類の無菌化を実施できた。そのうち、微細藻類の88%の種は、他の主要カルチャーコレクションに無菌株が存在せず、現時点で公的に利用可能な唯一の無菌株であると考えられる。さらに、本手法をフローサイトメトリーと併用することで、半自動的かつ高効率に無菌化を進めることが可能となった。また、本手法を応用し、付着性種のシングルセルゲノミクスや環境からの直接無菌株作成が可能であることが示された。本手法は今後の非モデル藻類研究の基盤技術となるだけではなく、藻類以外の生物への応用も期待される。
橘 理人
(山口大学 共同獣医学部)
「凍結保存に不向きなゾウリムシの安定した凍結保存方法について」
ゾウリムシは優れた真核生物モデルとして、研究や教育の現場で広く利用されてきた。特に寿命や老衰の解析において重要な役割を果たす一方で、細胞分裂を重ねると死滅に至る特性があるため、長期的な株の維持・管理が困難であるという課題を抱えている。これまでにもゾウリムシの凍結保存が試みられてきたが、解凍後の生存率が著しく低く、再現性にも乏しいのが現状であった。また、先行研究で構築された手法は操作が煩雑であり、結果が不安定になる傾向があった。そこで本課題では、より簡便かつ安定的にゾウリムシを維持できる新規凍結保存法の確立を目的とした。
まず、多様な生物リソースの凍結保存技術に関する情報収集を行い、ゾウリムシにおける保存阻害要因を整理した。その結果、ゾウリムシは「細胞サイズが大きい」「含水量が多い」「浸透圧変化に弱い」「運動性が高い」といった生物学的特性を有し、これらが氷晶形成や細胞障害を引き起こすため、本質的に凍結保存が非常に困難であることが再確認された。したがって、これらの物理的・生理的課題を克服する条件の最適化が不可欠であった。
そこで本研究では、凍結保護剤(CPA)および凍結プロトコルの両面から検討を行った。CPAについては多種多様な試薬のスクリーニングを実施し、浸透型保護剤としては5%程度のDMSOが最も適していることが示唆された。さらに、DMSO単独では細胞保護効果が不十分であったが、非浸透型保護剤を添加・併用することで解凍後生存率の大幅な改善が認められた。また、凍結手法の検討では、液体窒素を用いた急速凍結ではなく、ディープフリーザーを利用した緩慢凍結が適していることが判明した。その際、凍結過程で生じる潜熱を抑制し、一定の冷却速度を維持する工夫が極めて重要であることが示された。
本発表では、これらの知見をもとに構築した、ゾウリムシの簡便かつ安定した実用的な凍結保存法について報告する。
風間 真
(長崎大学 熱帯医学研究所)
「元気な赤痢アメーバ提供します ~赤痢アメーバ用の凍結保存法開発~」
赤痢アメーバ Entamoeba histolyticaは腸管寄生原虫の1種であり、血液と粘液の混ざった粘血便が特徴的な症状として知られている。時には肝臓や脾臓に転移して、死亡に至るケースもある。世界的には、衛生環境が悪い地域を中心に約5,000万人が感染しており、年間に数万人規模の死亡者がいると推計されている。先進国においても主に性的接触を通じて感染が拡大し、日本では年間に800~1,000件の報告がある。しかしながら日本で承認されている診断キットは1種類のみであり、また治療薬メトロニダゾールには強い副作用の懸念がある。そのため赤痢アメーバ研究の推進は世界的に強く望まれている。長崎大学熱帯医学研究所ではNBRP病原真核微生物の分担機関として、赤痢アメーバ株の整備を進めている。赤痢アメーバ分離株を扱う上で、高いハードルとなっているのが不確実な凍結保存方法である。赤痢アメーバ凍結保存株は融解後の生存率が極めて低いため、培養の再開には熟練の技術が求められる。個々の研究者や研究室で独自の方法や変法が考案されているが、劇的な改善には至っていない。また独自方法の継承によって標準的な手法が定まっていない。このことは継代培養を中断できない、新規参入が難しい、新たな分離株の入手が困難、という問題につながる。赤痢アメーバ凍結保存の問題を克服するため、NBRP基盤技術支援事業において、凍結保存溶液の種類、細胞密度、冷却速度、速度を制御すべき温度帯、の各条件を評価し、最も生存率の高い凍結条件を探索した。その結果、他の病原原虫種で用いられている凍結法よりも低速で緩やかな冷却速度が高い生存率に有効であることが判明した。また、緩やかな冷却速度を必要とするのは限られた温度帯であることが判り、高速の冷却速度と組み合わせることで作業時間の短縮を図ることもできた。本講演ではこの新しい凍結保存法と臨床分離株の収集状況、新らたに作製し直した凍結保存株の現状について紹介したい。
ナショナルバイオリソースプロジェクト(NBRP)は、わが国が戦略的に整備することが重要なバイオリソースについて、体系的に収集、保存、提供等を行うための体制を整備することを目的に2002年度にスタートしました。これまでの過去20年間におよぶ活動により、動植物・微生物等のバイオリソースとそれらに関する情報提供の事業拠点が整備され、世界的にも類を見ない多様かつ体系的なバイオリソース整備プロジェクトとして着実に成長してきました。
今回、バイオリソースのさらなる利活用の促進に向け、2023-2024年度に採択された基盤技術整備の課題の成果をご紹介いたします。基盤技術整備では、バイオリソースの品質管理、保存技術、利用価値の向上等により、NBRPの質を向上させることを目的とし、バイオリソースの収集、増殖、品質管理、保存、提供(輸送も含む)等に係わる技術の開発・整備を行なっています。このオンラインワークショップでは、5つのリソースについて、担当者から、最新の成果について発表いたします。
[主催/お問い合わせ]
国立遺伝学研究所 NBRP広報室